ファンクがアルバムの基調になっているところはTune-Yards「Sketchy.」と共振するようで、M3のSt. Vincentにしては珍しいスクリームなんかもまるでMerrill Garbusを見倣ったかのようだ。
尤もベースとドラムのみでタイトなファンクネスを聴かせていた「Sketchy.」よりも豪奢で装飾は多いし、ムードもよりレイドバックしている。
M2のシタール入りのサイケデリック・ソウルは70’s前半のStevie Wonderを想起させる(この曲に限らずシタールの音色は全編に渡りアルバムのシグネチャ・サウンドになっている)し、M12の暖かみのあるホーン・サウンドはSteely Danを思わせるもので、確かに本作の参照元が70’sのポップスだというのは良く解る。
確かにレトロであるのは間違いないが、M1のヴォーカルのフィルター処理によるドラッギーな感覚を始めとして、所々で音響上のギミックが散見され、単純な懐古趣味だとは思わない。
ただ如何せんSt. Vincentによる70’sソウル/ファンクというネタ感が先行してしまい、然程印象的/効果的とは言えない。
それらのサウンドは例えばAnderson .PaakやThundercatによって10年代後半のモードになったものの一つと言っても過言ではなく、少し今更な感じが無いでもない。
St. Vincent個人としても元より一つの厳格なスタイルに縛られたタイプのアーティストではないだけに、それほど新鮮味があるとも思えない。