Against All Logic / 2017 - 2019

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M1はTom Tom Clubハウス・ミュージック解釈といった感じで面白い。
成程Nicolas Jaarは自らのクラシカルの素養とハウス・ミュージック・プロデューサーとしてのキャリアを名義によって明確に分ける事にしたのかと、今更ながら納得する。
と言っても勿論決してダンス・オリエンテッドなだけではなく、Arcaにも通じる琴を変調させたような音色は確かに2010年代のIDM的な感覚も惹起させる。

M7の拡散する倍音を含んだシンフォニックなシンセ音は、FKA Twigs「Magdalene」で聴かれたNicolas Jaarのシグネチャサウンドそのもの。
それはまたJames Blakeのアイコニックなシンセ・サウンドとも通じるもので、両者を2010年代初頭に現れた才能として並べて比較したくなる向きも理解出来る。

グリッチとまではいかないものの、エレクトロニカの時代を思わせるユニークなマテリアルが多く、M3のドリーミーなブレイクビーツ竹村延和Mouse On Marsを彷彿とさせるし、無機質なM4はAutechreを思わせなくもない。 
M8のヴァイオリンのような音色と性急なビートの組み合わせはPlaid辺りだろうか。

或いはファットでノイジーなビートが扇情的なM6には、2000年代のフレンチ・エレクトロ、特にMr. Oizoや、Kid606がエレクトロに接近した「Shout At The Döner」なんかを思わせるところもある。
近年には珍しい音色的な面白さとダンス・ミュージックとしての機能性を兼ね備えたアルバムという意味で、Floating Points「Crush」に近接するくらいの良作で、IDMエレクトロニカとハウスの接合という意味ではHerbertやThe Soft Pink Truthを継承する存在に思える。