AJ Tracey / Flu Game

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Wileyを少し若々しくスマートにした感じの声質で、ジャスト・タイミングで細かくリズムを刻む切れの良いのファスト・フロウは快楽指数が高い。
ラップ自体にメロディの要素は希薄で、Headie Oneよりも硬派でSlowthaiよりもずっとグライムの伝統に忠実な印象を受ける。
動きの多いウォブル・ベースが懐かしいM2なんかは特に。

アルバム前半のトラックに於ける、安っぽくしみったれたマイナー調のメロディのゴシックなシンセ・シーケンス中心の上音は、如何にも最近のヒップホップ/トラップで関心はしない。
使い古されたオートチューンによるコーラスも陳腐だが、ビートはリズミックな装飾が多く、UK産のストロング・ポイントがここでも発揮されており、単調さは回避されている。

特に中盤以降はデジタル・プロセッシングされたスパニッシュ・ギター風の音色がトラックの基調となり、ヴォーカル入りも増えてぐっと曲調にメロウさが増す。
M10に始まりM12までの一連の楽曲群ではラテン・テイストのサウダージ感のあるメロディが続くが、父方がトリニダード・トバゴの移民というルーツとの関係もあるのだろうか。

アルバム終盤のM14〜M16では畳み掛けるようにポップ路線が続き、抗えない魅力がある。
M16のバウンシーな2ステップは、Skream「How Real」なんかのプレ・ブロステップ期の歌物ダブステップを彷彿とさせる。
サウンドの含蓄という点ではSlowthaiに及ばないが、ポップネスでは最近のグライム/UKドリルの中で頭一つ抜き出ている。