Tricia Rose / Black Noise



94年に刊行されたアメリ社会学における
ヒップホップ研究のパイオニア的著作である
トリシア・ローズの「ブラック・ノイズ」を読んだ。


面白いと言えば面白いのだがこの違和感は何だろうか。
単に好きなアーティストの話が少ないというだけの話ではない気がする。
(事実、Public Enemy の"The Night Of Living Baseheads"のPVに関する論考に
かなりのページが割かれている。)
色々考えた挙句、その違和感は
ヒップホップを巡る立場の相違に起因するという結論に至った。


著者の立場とは即ち「ブラックフェミニスト」としての立場であり
白人に対して黒人の、男性に対して女性の立場に立脚し展開されるその論考は
つまるところ黒人の、特に黒人女性の社会的地位の改善に寄与する音楽として
ヒップホップを評価する。
社会学であるが故に何らかの評価基準にを身を置く必要性は
痛いほど良く分かるのだがそれにしても何かに寄与する事自体が
その音楽の正統性として語られる事ほど空しいことはない。
大事な事は音楽そのものではないのだから。


この本が書かれた90年代初頭は
今ではヒップホップの黄金時代とされているが
その後〜現在に至るヒップホップの短い歴史を
彼女はどのように捉えているのだろうか。


90年代中旬以降のヒップホップの進展・拡張において非黒人が果たした役割は
それ以前の10年とは比較にならないくらい大きかった。
アブストラクト」と呼ばれたインストヒップホップの革命や
El-PやAnticonによるオルタナディブな音楽的冒険を
今の彼女はどのように表現するのだろうか。


その答えが仮に「それはヒップホップではない」だったとしたら
まるでロック雑誌ではないか…。