Flying Lotus / Cosmogramma

早くもFlying Lotusはこの作品によってJ Dillaの影響下から軽やかな飛躍を遂げ、彼のサウンドを語る際の「ポストJ Dilla」というクリシェを完全に無効化した。
前作が未だビート集の趣きを色濃く残していたのに対し、本作で同様に矢継早に繰り出されるビートはむしろ
アルバムのトータリティの創出に寄与するように感じられる。

一つ一つのトラックは乱暴な手付きながら尋常ならざる集中力を以て作り込まれた印象を受ける。
ビートのヴァリエーションは前作より遥かに豊富で、四つ打ちからジャングルライクなビートや井上薫を彷彿とさせるトライバルなハウスのようなシンコペーションまでがある。

アルバム全体が醸し出す濃密で重厚・荘厳な世界観は確かにより顕著になったジャズやクラシカルな要素に起因しているだろうが、それはこの作品のほんの一側面でしかない。
ここにはAlice Coltrane譲りのハープの音色やJaco Pastoriusライクなスラップベースから、J Dilla直系のずれたハイハットBjorkを彷彿とさせるストリングスやダブステップの重低音や音割れや様々なノイズ、そして勿論Thom Yorkeの声に至るまでが全て等価に鳴っている。
その結果として現出する音世界からは混沌への強い意志すら感じられ、最早ヒップホップの枠に収め切れる音楽でない事はどう足掻いても認めざるを得ない。

これはヒップホップのミュータントであり最新型のスピリチュアル・ジャズであり、何よりも久々に現れた強固な訴求力を持ったエクスペリメンタル・ポップ・ミュージックという意味で、ポスト「Kid A」と呼んで然るべき音楽だと思う。
確かにこのサウンドには複数のジャンルやトライブを横断する可能性が詰まっている。
ポップの断片化など到底嘆く気にはなれないが、この音がこの国でもヒットチャートの上位に上った事実には流石に興奮する。