RJD2 / The Colossus


かつて、The Rootsがバンドである事を理由に「ヒップホップではない」と揶揄された事からも解るように、サンプリングとは確かにヒップホップの重要な本質の一部だった。
手法としてのサンプリングは勿論現在でも使用されているのだが、その重要性が昔と比べ低下している事もまた確かな事のように感じる。

例えばFlying LotusHudson Mohawkeのトラックにサンプリングソースを見出す事は最早難しいし、彼らのトラックを前にすると「ネタ探し」などという行為自体が酷くナンセンスな事にも思えてくる。

その一方で、かつてアンダーグラウンドヒップホップの急先鋒と目されたトラックメイカーのこの新作からは、昨今のアブストラクト以来のインストヒップホップの隆盛にも関わらず、全くと言って良い程シーンとの接点が感じられない。

懐かしいレコードノイズが横溢するサウンドは、未だRJD2がかつてDJ Shadowが居た(そして今ではすっかり閑散とした)場所に留まり続けている事を印象付ける。
ここではかつてDefinitive Juxがレーベルを挙げて醸し出していたドープネスは雲散霧消し、代わりにソウルやファンク、R&Bや、まるで「Get Back」のようなロックまでもが担ぎ出され、快活にサンプリングの復権を謳っている。

好き嫌いだけを言えば断然自分好みの音ではあり、どのトラックもメロウでフックが効いていて充分楽しめる。
懐古趣味的なソウルナンバーはJamie Lidellの近作などとの共振も感じさせはするのだが、Jamie Lidellが近作で殆どシンガーに徹していたのに対し、El-Pの秘蔵っ子と呼ばれたトラックメイカーの現在を反映したサウンドとしては物足りなさを感じてしまうのが正直なところである。

殊更にシーンへの目配せを望む訳ではないが、同調するにせよ反撥するにせよ、何かしらの同時代のビートに対するアクチュアルなリアクションが感じられない事はやはり残念ではある。