Pearson Sound / Pearson Sound

ポスト・ダブステップ世代の寵児による遅過ぎたファースト・アルバムは、冗長に不自然な収縮を繰り返すシンセ音で始まる。
隙間だらけのストラクチャーは敢えて盛り上がりを忌避するようで、Untold程ではないにせよアンチポップで何かしらのモードを共有している事は間違い無く、例えばそれをEDMへの反発と仮定するのは些か短絡的過ぎるだろうか。

音色自体に特筆すべき点は少ないが、M4やM8のタブラを思わせるタム使い等、Ramadanman時代からの特徴であるパーカッシヴなリズムや随所に現れるシンコペーション等、Untoldに較べればリズムに聴きどころは多いものの、流れを中断する逆効果なブレイクや唐突な終わり方等、やはりフロア向けとは言い難い。

極端に欠落しているのはあろう事かベースの要素で、勿論低音域を強調する音楽ではあるが、ベースは殆どキックを補助する程度の役割しか果たしておらず、主役となってトラックを先導する瞬間は一切訪れない。
グルーヴィ―なベースを加えれば途端にダンサブルになりそうなリズム・トラックを、敢えてそうしない事にこそ本作のアイデンティティがあると訴え掛けてくるようでもあり、反骨心が透けて見えるようだ。

ベース・ミュージック以降に現れた機能性を捨象したテクノ・ミュージックの内、Laurel HaloやActressがその滲み出る知性によって新世代のエレクトロニカといった印象を与えるのに対して、まるでアンチポップである事自体が目的化されたようなUntoldの近作や本作からは、メインストリームや普通である事への否定やアヴァンギャルドへの憧憬が強く伝わってくるという意味で、EDMという産業テクノの登場によって漸くテクノにとってのオルタナティヴの時代が到来した、というのは意外に悪くないオチではないか。