Bicep / Bicep

エコーの効いたアンセミックで何の変哲もないシンセリフを始めとして、上物、ベース、ビート、どの音色を取ってもプリセットのように月並みで、ノイズと呼べるようなエクスペリメンタルな要素は一切無いのが、却って耳に新鮮だったりもする。
構成は至極単純で、特段驚かされるような展開も皆無だが、確かに機能性は高く、臆面も無くフロア志向が披露されている。

M3のBPM130付近のバウンシーなブレイクビーツ・テクノはまるで邪気の無いAFXといった感じで、そのオールドスクールなシンプリシティはまるで90’sテクノのようだ。
敢えて2000年以降で例を挙げるならSimian Mobile Disco辺りに近いようにも思えるし、或いはリリカルで解り易いメロディやシンセのアルペジオを主軸としたコンポジション等はFour Tetの近作に通じるものがある。

イーヴン・キックの規則的なビートが主体ではあるが、M2ではアンビエント・テクノ風のシンセにガラージ風のビートを組み合わせたり、M8のセンチメンタルな旋律と変則的な2ステップの乾いたスネアはフューチャー・ガラージなんて単語を思い起こさせるものだったりと、UKベース・ミュージックからの影響もそれなりにあるようだ。
但しどのトラックでも展開を引っ張るのはメロディックなシンセリフによる上物で、この10年間エレクトロニック・ダンス・ミュージックを牽引してきたベースが弱体化しているのは特筆すべき点に思える。

ポスト・ダブステップのバブルが弾けて以降のエレクトロニック・ミュージックがEDMとエクスペリメンタル・テクノに二極化しているのは確かで、そろそろその反動が顕在化しても良い時期に来ているのは間違いない。
EDMにアンチを唱えながらもエクスペリメンタル・テクノに寄らない第3の道としてのトランスの再発見というのは解り易い話ではある。