Death Grips / The Powers That B

只管Bjorkの声をサンプリングして切り刻んだDisk1は何故Bjorkをチョイスしたのか理解不能ではあるが、個人的にヒットとなった「The Money Store」よりも余程好みなのは、先ず以ってスカムで稚拙なラップがやや控え目である事に依るのかも知れない。

唯でさえ展開に脈絡が無い上に、曲間が極短い事で滅茶苦茶やっているようにしか聴こえないが、Bjorkの声が上モノとして効果的に機能しているせいで、不思議とポップネスがある。
エレクトロニックなビート・プロダクションはZach Hillのスキルの高さを窺わせるに充分なもので、M4の導入部ではAphex Twin張りの高速ブレイクビーツも披露されている。
執拗なヴォーカル・チョップや断片的なループはジュークっぽくなくもないし、エレクトロニクスの比重の高さによって90'sオルタナ臭は薄れて、グライムっぽい瞬間もあったりするような。

Disk2では打って変わって、従来のDeath Gripsのイメージに近いいなたさが復活し、デジタル・ハードコアみたいなM9に始まって、Death Grips流のラップ・メタルのM11に、ヴォコーダーが不釣り合いなストレートなパンク・チューンのM12やM15は生ドラムやヘヴィなギター・リフによって割と普通のロック・バンドのようにも聴こえる。

元よりDeath Gripsのサウンドは90'sで言えばAtari Teenage Riot辺りに近いハードコアとエレクトロック・ミュージックとヒップホップのミュータントで、この音楽が躊躇無くヒップホップの棚に置かれている事実は、ラップ(尤もMC Rideのそれはラップ以前だとは思うが)さえ入っていれば、即ちヒップホップという認識の顕れのようにも思われ、ずっと違和感が拭えなかったが、それは退行と言うよりも、寧ろ凡ゆるジャンルが極限まで細分化された結果、何にも属さない音楽の総称としてのオルタナティヴが消滅し、逆に各ジャンルに於いて受容されるサウンドの幅が極限まで拡張された結果なのだとも。