Lost Girls / Menneskekollektivet

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シンセ・アンビエント/ドローンとリズム・マシンによるドラム・ビートにJenny Hvalのスポークン・ワード/歌。
時折装飾もあるがほぼ3つの要素のみの単純な構成で、更には要素のどれを取っても単体では然したる新奇性も認められないにも拘らず、それらが複合する事によってカテゴライズ不能オルタナティヴ・ミュージックが現出する様は正にマジカル。

例えばクリシェ的にも思えるハウスのビートの上を、過剰な音量のシンセと取り留めの無いハミングが揺蕩うM3は、その音色に目新しさはまるで無く、一歩間違えば凡庸なアンビエント・ハウスになりそうなところなのに、とてもではないがこれで踊れる気がしないオリジナリティの塊のような音楽になっている。
醸出するムードはまるで違うが、M4のある種の冗長さが産み出す奇矯さは例えばCabaret Voltaireにも通じる類のものだ。

これでポップネスの欠片も無ければ未だアヴァンギャルドで済まされるのだが実態は寧ろその逆。
M1ではヒプノティックなアフロビートの後半のここぞという場面で投入される上昇するベース・ラインが強烈なフックになっている。
まるでポップの錬金術の秘密を知っている人間が敢えてそれを小出しにしているような感じだ。

経験的に聴取中に中々言葉が浮かんでこない音楽というのは、余程詰まらないか自分の語彙力では表現出来ない程斬新かのどちらだが、本作は間違いなく後者に属する音楽だと言える。
他の何にも似ておらず、比類するものが何も思い浮かばない。
DarksideやMoor MotherにTirzah等、2021年もその先進性に唸らされた作品が幾つかあったが、ある意味ではそのどれよりも難解に感じられる。