長尺を掛けてメロディや音色をレイヤー、グラデーションさせながらビルドアップしていき、ブレイクを挟んで再度クライマックスを迎える展開等の基本的な要素は何も変わらないが、心無しかこれまでディストーション・ギターを補強する役割に徹していたヴァイオリンが独立して聴こえる瞬間が増え、存在感を増したような印象を受ける。
アルバム・タイトルは昨年の2月13日までにガサ戦争で死亡したパレスチナ人の人数を示しており、曲のタイトルにも苛酷な戦場のイメージを喚起させるものが多い。
静寂から始まり、次第にノイジーに展開する点も相変わらずだが、戦場というこの世の地獄をサウンドで描写したかのように聴こえるのはM4の一瞬くらいで、全体的には寧ろ(GY!BEの作品にしては) 穏やかな部類に入ると言って良い。
いつにも増してメロディアスなM2なんてロマンティックだとすら言いたくなるほどで、まるで闇の中に光が差すような、鎮魂にも祈りにも似た感覚を惹起する。
急進的なアナーキストのイメージが先行しているが、このバンドの根幹にあるヒューマニティーが顕になるような心持ちがする。
M3の後半は宛ら2000年代のSonic Youth、特に「Murray Street」を思わせるが、当時の彼等がホームであるニューヨークで起こった同時多発テロと、それに端を発するイラク戦争に影響されていたであろう事を思うと、戦争という影が人間の光を濃くするというのは実際にある事なのかも知れないと思わされたりもする。