PJ Harvey / I Inside The Old Year Dying

何処か悪戯っぽいというか、奔放さやイノセンスにほんの少し狂気が入り混じったような発声が内包する少女性に先ずは驚かされる。
その印象は所謂円熟とは真逆で、若い頃はそれほど気に留める事が無かったが実に魅力的である。
特段大きな綻びがある訳ではないが、巧いという表現がそぐわない微妙な不安定感が強烈なフックになっているという意味でやはりPatti Smithの系譜を感じる。

「A Noiseless Noise」なるタイトルに反してフィードバック・ノイズが咆哮を上げるM12に唯一「Dry」の頃の名残があるものの、その他は静謐なフォーク・ロックが基軸になっている。
微かなエレクトロニクスのコーティングが効果的で、ビートは生ドラムのブラシ・ワーク中心にも関わらず、トリップ・ホップ、特にM1やM5には宛らPortisheadのような質感がある。

エレクトリック・ギターの残響が荒涼としたサウンド・スケープを描き出す中に、追想のような「Love Me Tender」のリフレインが微かに叙情を紡ぎ出すM10はシューゲイズやドリーム・ポップ的でもある。
加えてM2やM5の構築的なサウンドはある種ポスト・ロック的でもあり、Radioheadにかなり近いものも感じさせる。

90’sのイギリスでRadioheadと感覚を共有していたアーティストはほぼ皆無だったが、今にして思えばその稀有な例外とも言える存在がPJ Harveyだったのかも知れない。
事実PJ HarveyにはThom Yorkeをフィーチャーした楽曲もあり、シンパシーは確かにあるのだろう。
一度そのような思い付きが頭をもたげ始めると、要所要所で聴こえる男声コーラスがThom Yorkeに聴こえて仕方ない。