Brian Coleman / Check The Technique

音楽を受容する上で最も大切なものは勿論音だ。
しかしながら殆ど同じくらい、音楽に纏わる情報や「物語」に自分が強く突き動かされてきたのもまた事実だと思う。

ヒップホップは特にそうだ。
初めてDe La SoulのPVの中にQ-TipやJB'sの姿を見付けた時から、そこに「コミュニティ」の存在を強く感じ、またそれに魅せられてきた。

本書で登場する心躍るエピソードの数々…
Scott La RockとEric Bが連れ立ってゴールド・チェーンを買い漁っていた話、Big Daddy KaneがBiz Markieのゴースト・ライターだったという話、De La Soulの1stレコーディング中に遊びにきた豪華な面々(Biz Markie, Beatnuts, Ultramagnetic MC's)、Pete RockQ-TipLarge Professor、Lord Finesse達と一緒にレコードを掘っていた、という話、どれもが黄金期のヒップホップコミュニティの存在を強く印象付ける。

多くのプロデューサーが、自分の親のレコード棚から
サンプルを引っ張ってきたと語るのも、横だけでなく縦の連帯を物語るようで興味深い。
ロックが親の世代を否定する音楽だったとすれば、ヒップホップは親の棚からくすねた音楽を使って発明された音楽だ。
それは多くの黒人音楽と共通する点でもあるだろう。

多くのビーフや抗争、和解も含めて、それらが如何に「ストリートのリアル」のなのだとしても、自分のような不良ですらない日本人には、そのコミュニティに纏わる物語はある種のファンダジーとして作用してきた。
ストッキングを被ったWu-Tanや(本書には出てこないが)、Kool KeithやMF Doomのオルターエゴはまるでプロレスの世界だ。
中学生の自分が魅せられたのも無理は無い。

本書の「クラシック」のラインナップには殆ど文句は無いが、個人的にずっとヒップホップから無視されたと感じていたBeastie Boysの「Check Your Head」が扱われている事は、実に意外な、嬉しい驚きだった。

3MCを再びラップに回帰させたのがBiz Markieだったという話(本書ではミドル〜ニュースクール期におけるBizの影響力が如何に多大だったかが良く解る)、そしてレコーディングを終え大工仕事に戻ったMoney Markが、Beastie Boysの強い説得でツアーに出た後、二度と仕事場に大工道具を取りに行っていないというエピソードは実に感動的だ。

逆に一つだけ注文を付けるとすれば、このタイトル「Check The Technique」に関わらずGang Starrの「Step In Arena」が入っていない点だ。
DJ PremierはしっかりM.O.P.のアルバムについて語っているので、或いはGuruが嫌がったのか。

いずれにしても?uestloveではないが、続編を期待したい。