The Avalanches / Wildflower

「Since I Left You」という作品は、Beastie Boysが基盤を作り、Beck「Odelay」で一つの完成を見た、90's後期オルタナティヴに於けるヒップホップから盗用されたサンプリングの手法と他ジャンルの結合というトレンドの最高到達点であったが、16年の歳月を経て、漸く日の目を見た本作もやはりサンプリングが最高にヒップな行為だった最後の時代の産物であり、Boards Of Canada「Tomorrow's Harvest」と共通する、まるで時間が止まってしまったような感覚がある。

実際にはサンプリングの使用は大幅に減少し、多彩なゲストを迎えての生演奏が多用されているらしいが、それでもロックにジャズ、ラウンジ、ソウル、The Beatlesから「My Favorite Things」に至るまで、サンプリング・ソースに深く依拠した音楽である事に変わりはない。
とは言え彫刻のような精巧さとは対照的なラフなミックスによって、パッチワークである事が強調されており、音量、音程、ピッチ全てに於いて歪さが敢えて前面に押し出されている。
余り効果的とは思えないリバース・ディレイのループやビートのズレがカオティック過ぎて船酔いしそうなるM19等、思わず首を傾げたくなる瞬間も無くはない。

ドラッギーでサイケデリックな要素は本作の特徴で、M7からM8にかけてのドリーミーな展開等にはThe High LlamasCorneliusの「Fantasma」とThe Flaming Lipsを足して割ったような感覚がある。
(本作を聴くとCorneliusの欧米での受容のされ方や
何故全米を一緒にツアーして回ったのがThe Flaming Lipsだったのかが良く解る気がする。)
Mercury RevのJonathan Donahueを筆頭に、Toro Y MoiからTame Impala、(クレジットは無いが)Ariel Pink等の名だたるゲストの名前からは、空白の16年の間に一時代を築いたネオ・サイケデリアへの傾倒が窺える。
その点では少なくとも後5年早くリリースされていれば印象も随分と変わっていたかも知れない。
(まさかのJennifer Herremaの参加だけは背景が全く見えないが、その変わらない歌声に思わず頬が緩んでしまう。)

一方でBiz MarkieからMF DoomにDanny Brownまで、多くのラッパーの参加によってサイケデリックと同時にヒップホップ色も強まった印象を受ける。
M9等はまるで「3 Feet High And Rising」を聴いているようで、サンプリング・アートの出発点としてのDe La Soulを再確認すると共に、本作とは対照的に彼等がサンプリングをほぼ使わず(使えず ?)して新作を制作した事に複雑な心持ちがする。