Dirty Projectors / Bitte Orca

2009年の買いそびれ。
David ByrneBjorkと?uestloveのお気に入りとはどんな音楽かと訝ったが、実際に聴いて妙に納得させられるところがあった。
ぎこちないリズムとスノビッシュな感覚はTalking Heads直系だし、流麗なフィンガーピッキングのギターとストリングスは如何にもBjorkが好みそうな音だ。
そしてそんな要素とはとても似つかわしくない強靭なビートがヒップホップ界随一のドラマーの共感を惹起した事にも頷ける。

更にはソウルフルで些か大仰なボーカル、コーラスと間が多くノンエフェクトで飾り気の無いギターサウンドからはDeerhoofをバックバンドに従えたQueenなどという奇矯な表現さえ湧いてくる。
優れたポップミュージックとは何かしら既視感と言うか、「〜みたいな」という表現が可能な音楽だという気がする。
ポップネスとは結局のところ聴取経験によってのみ形成される。
何処かで聴いた事がある、という感覚こそが「ポップ」の正体ではないか。
完璧に斬新で誰も聴いた事の無い音楽がポップに響く筈もない。

勿論、単純に有り触れているだけでは殆ど「ポップ」とは「退屈」と同義語だ。
ポップネスと新鮮さを同居させる事の出来る音楽はそうそう簡単に創れるものではない。
Dirty Projectorsを聴いているとやはり重要なのは組合せであり配置なのだと思う。
それこそThe Beatlesの時代から最早新しいメロディは生まれないと言われて久しく、エレクトロニカやポストロックを経た現在では音色そのものに新しさを求める事も困難だ。
「ハイブリッド」などと称される、退屈と退屈を退屈に配置した退屈な音楽が氾濫する中でこのバンドのピックアップと配置のセンスには突出したものがある。

面白い事にフリーキーで複雑な構造を持ちながら例えば同じくブルックリンを拠点とするAnimal Collectiveなどと比べるとDirty Projectorsサウンドには音響処理やエレクトロニクスの要素が希薄である。
音色だけとってみると非常にオーセンティックなバンドサウンドで、ポストプロダクションに頼らずに曲作りだけでまだ面白い事は出来るという良い見本だと思う。