Emeralds / Just To Feel Anything

エレクトロニック・ビートの大胆な導入からはOneohtrix Point Neverが「Replica」に於いて細かくカットアップされたサンプリング・ループを用いて、新世代によるアンビエント・ミュージックというイメージから逸脱しようとしてみせたのと同様の企図を汲み取る事が出来る。

但しOPNがよりノイズ・ミュージックに接近したのに対して、EmaraldsはまるでTangerine DreamManuel Göttschingからの影響に加えてKraftwerkの遺伝子が表出したかのようなエレポップ路線でポップに大きく舵を切っている、という点で両者のアプローチは対極のベクトルを向いている。

前作にしてもそのクリーンなシンセ・サウンドレフトフィールドな電子音響レーベルの代名詞とも言えるMegoのイメージとの乖離には随分驚かされたものであったが、本作と対比して聴く「Does It Look Like I'm Here?」からはそれでもまだ多様なノイズが鳴っていた事に気付かされる。
M5等では一瞬KTLと見紛うような不穏なヘヴィ・ドローンが披露されたりもするが、アルバム全体からすればほんのインタールードのような存在で、シンセ・ベースとドラムマシンが形成するシンプルでリニアなビートの上を三者三様の旋律がインプロヴィゼーション的に展開するスタイルが基調を成している。

その様子はシンセサイザーとギターとが不可分に、渾然一体となって、壮大なアンビエンスを醸出していた前作とは異なり、各音が付かず離れずに自立性を保って鳴らされている、という点で今となってはEmeralds瓦解寸前のドキュメントとして聴く事も出来る。
特に前作でシンセの隙間を縫うように鳴っていたMark McGuireのギターが本作ではシンセを背面に押し退けて、前面に出てこようとする瞬間が多々聴かれ、ギタリストの音楽家としてのエゴの萌芽がEmeralds解散の発端となった事を示唆するかのようで興味深い。