Oneohtrix Point Never / Good Time

チージーなアルペジエイターやいなたいシンセ・ギター、慎ましやかではあるが時折現れる重量感のあるビートは確かに「Garden Of Delete」を踏襲しており、同作の「ハイパー・グランジ」なるコンセプトが決して一時の気の迷いではなかった事を物語っている。
とは言えサウンドトラックらしくミュージシャンのエゴが前景化する瞬間は皆無で、抑制が効いていて聴き流せるという点でAir「The Virgin Suicides」の場合と同様に優れたサウンドトラックの条件を充たしている。
その結果「Does It Look Like I'm Here?」の頃のEmeraldsに接近するような感覚もあり、比較対象にManuel Göttschingの名前が挙がるのも理解が出来る。

劇中からの引用であろうシーンを喚起させる音声/環境音の挿入や物音っぽい打撃音はサウンドトラックならではで、矢鱈と劇的な(サントラなのだから当然だが)緊迫感のあるメロディはサスペンスクライムものといった想像をさせる。
統一感のあるメロディや音色の一方で、トラック単位には僅かなムード程度の微細な差異しかなく、大袈裟な割に断片的で曲としての纏まりには欠ける。

映画より目立ってはならないという制約を考えればそれも当然で、余程映画自体が狂ってでもいない限り、音楽単体で面白いサウンドトラックというものはあり得ない(そしてその場合、多分映画自体は面白くない)のではないかと考えると、Daniel Lopatinのバランス感覚と適用能力が見事に発揮された仕事振りだと言える。

M12後半の勇壮で叙情的なメロディで些か唐突に物語の終わりが告げられ、続くM13ではエンドロールが流れる様が鮮明に目に浮かび、観てもいないのに不思議と満足感がある。
OPNらしい大仰なシンセのアンビエンスとピアノが奏でるセンチメンタルなメロディに、如何にも喰い合せが悪そうに思われたIggy Popの枯れたヴォーカルが絶妙にマッチしたこの名曲を聴くだけでも充分に買った価値はある。