Beach House / 7

M1の男女混声のヴォーカルとビートボックス風に淡々と刻まれるドラムが聴こえた瞬間にフラッシュバックする「Loveless」の亡霊。
M2の低周波で唸り続けるノイズ然り、勝手にチルウェイヴのバンドだとばかり思っていただけに、そのシューゲイズ的意匠には新鮮な驚きがあった。
夢見心地で微かに漂うデカダンスにはDeerhunter、特に「Fading Frontier」に通じる感覚もある。

M3以降のシンセ主体のトラックは比較的チルウェイヴのイメージに近いが、My Bloody Valentine程フィードバックにばかり依拠している訳ではないにせよ、引き続きギターが重要な役割を果たしている事には変わりがない。
アコースティックな音色やアルペジオまで、その音色や奏法は多様で、M5のギター・ソロ等はMark McGuireを彷彿とさせたりもする。

M8のアコースティック・ギターとシンセの組み合わせや、M6のドライヴするビートと陶酔的なギター・ストロークはEmeraldsを思わせたりもして、もしもEmeraldsに魅力的な女性ヴォーカルが居たらという妄想に駆られたりもする。
何れもエレクトリック・ギター特有のいなたさは皆無で、その灰汁の強い音色をこれだけ淡白に響かせる事が出来るというのは一種の才能だろうと思わされる。

他にもM4の幾重にもレイヤーされたポリフォニックなコーラスとシンセのマリアージュや、M7のマイナー調のアンニュイなメロディ・センスからは、Julia Holterが想起されたりもして、実に多様なイメージを喚起させる。
特段新しさがある訳ではないし、これと言ったワン・アンド・オンリーな特徴も無いが、ドリーム・ポップのブームが過ぎたからと言って見過ごすのは勿体無い作品だと思う。