Autechre / Exai

耳障りな電子ノイズや硬質でインダストリアルでファットなビートは「Tri Repetae」や「Chiastic Slide」を彷彿とさせ、ポスト・インダストリアルと図らずもリンクしてしまったかのような印象を受ける。
同時に本作には「Amber」のアンビエンスが、「Confield」の複雑性や混沌が(ラストトラックで聴こえる金属製のボールが跳ね回るかのような音は直截的に「Confield」のオープニングを思い起こさせる)、「Oversteps」の不定形さが混在していて、Autechreのキャリアの集大成と呼べる内容になっている。

とは言え例えばAphex Twin「Drukqs」やSquarepusher「Ufabulum」のような総括的な内容に伴いがちな散漫さや行き詰まり感は皆無で、そのキャリアの一貫性を反映するようにそのヴォリュームに拘らず確固たるトータリティがあり、ライヴ宛ら各トラックがシームレスに繋がる構成を含め全く弛緩する事無く聴き続けられる。

確かに取り立てて新機軸と呼べるような要素は見付からないが、多様で複雑な音響やビートパターンや流動的な展開等、その先進性に翳りは微塵も無く、その実験性とポップネスのバランスは長いキャリアの中でも特筆に値するもので、期待が膨れ上がった「LP5」「EP7」の後に聴きたかったのはこのような作品だったのかも知れないと思ったりもする。
メロディに於いてもビートに於いてもポップネスを断固拒絶するようだった「Confield」から10余年を経て、近年のAutechreは嘗て自らに課した如何なる制約からも自由な印象を受ける。
ここには反復を徹底して排除するようなトラックの一方でループするシンセのシーケンスがあり、リズムを認識するのが困難なほど難解な変拍子の一方でM16のようなシンプルなヒップホップのビートがあり、嘗てのRichard Devineを彷彿とさせるような微細なグリッチやサーフィス・ノイズに至るまでの一切の音が一体となって構成するリズムもあれば、対照的に明確にビートと上物が分離したトラックもある。

そして今我々がこの音楽を単純に格好良いと感じる事自体がAutechreのラディカルな音楽的冒険によって齎された耳の拡張の結果である事は疑いようが無く、改めてその果てしなく大きい功績を思い知る。