Autechre / Sign

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純然たるアンビエント/ドローン作品とは呼べないまでも、リズム/ビートに力点が置かれていないのは確かで、M2やM4等のノンビートには確かにOPNに接近するような感覚がある。
勿論、本人達に確かめたところで冷徹に、完膚無きまで否定されるのがオチであろうが、キックやスネアを伴うという意味での明確なビートを有したトラックとビートレスのトラックがほぼ交互に配されている点からも、何らかの意図の介在は明らかなように思われる。

その印象の多くは、美しいとさえ表現したくなる和音/ハーモニーに依っており、変拍子や不協和音といったAutechreサウンドを特徴付けてきた要素が相対的に抑制される事で強化されている感があるが、一定のリズムやメロディ回帰は2000年代後半からのAutechre作品の傾向に沿ったものでもあり、ドラスティックなシフトチェンジを感じさせるものではなく、敢えてマイナーチェンジと言っても良い。

ことポップ・ミュージックに於いては、変化に乏しい事が兎角ネガティヴな意味を持ちがちだが、勿論ここでマイナーチェンジという言葉を用いたのにそのような意図は無い。
「Amber」と「Confield」の間に乖離があるのは確かだが、それは徐々に変容を繰り返していった帰結であって、寧ろこれまでにAutechreがドラスティックに変化したタイミング等一度も無かったのではないだろうか。

Autechreの変遷とは、時の経過と共に当然に生じる制作環境や嗜好、或いはもっと単純に過去の制作方法、プロセスに対する倦怠といった言わば乱数的なパラメーターの変化によって齎されてきたもので、変数としてのコンセプトの設定が先に来ることは決してない。
その変容の在り方は正にAutechreサウンドそのものと全く同じように流動的で、徹底した美学が一貫されているという事が良く解る。