Actress / AZD

金属的な電子音が無作為に転げ回るイントロは、例えばAutechre「Confield」の冒頭を思い起こさせるという意味で如何にもエレクトロニカ的で、M2等のボトムの軽いイーヴンキックはクリック/マイクロ・ハウスを想起させるし、ヴィブラフォンにも似た音色とノンビートのM8はある種フォークトロニカ的で、Wechsel Garlandなんかを思い出したりもする。

と言うような事は基本的に「R.I.P.」の頃に感じたのと全く同じで、改めて最近話題のブラック・エレクトロニカの先駆者としてActressを再認識すると同時に、出てきた時からその衝撃が大幅に更新される事も無くいい加減少々食傷気味にもなってくる。
ベース・ミュージックの失速と入れ替わるように現れた新世代によるエレクトロニカの復興は、早半ディケイド近く決定的なムーヴメントになる事も無く鳴かず飛ばずで続いており、それはここ数年のエレクトロニック・ミュージックを覆う停滞感とも無関係ではないように思える。
(本作の良し悪しとは全く関係の無い話ではあるが。)

ビートに陶酔する事を拒絶するかのような特徴的なサーフェス・ノイズが幾分希薄になった(ような気がする)点は変化と言えば変化だが、M2〜M4のほぼ何も起こらない反復に、ズレの解消によるカタルシスの無い無目的なビートとシーケンスの非同期性が相変わらず聴き手のフラストレーションを誘発する。
それが4つ打ちだったりM5ではグリッチーなヒップホップ風等、従来であれば身体性が高い筈のビートを使って為されるが故に効果は覿面で、思えば快楽原則を阻害する蛇足な要素が1トラックに必ず一つはあるという点で、敢えて聴き手を苛々させたいという欲求こそがActressの作家性の核ではないかとも思えてくる。
シンフォニックなシンセと両極端なラジオ・ノイズが各々無関係に漂うM10等は正にその好例と言えるだろう。

一方で「Selected Ambient Works」を思い起こさせるアンビエント・テクノのM6や、珍しくファンキーでディスコティックなベースをフィーチャーしたハウス調のM7、スラップスティックなダブテクノのM9に、Zombyにも通じるチップチューン風のM12等、流用されるスタイルの幅は広く、シンプルではあるがそれなりの展開もあって、単なるアヴァンギャルドでは切り捨てられないポップネスが同居しているという点で、相変わらず一筋縄ではいかない(要するに何がしたいのか良く解らない)その志向性はやはり魅力的ではある。