Lee Gamble / Mnestic Pressure

ジャングルのビートが現れたと思った途端、一瞬にして猛烈な水圧のようなノイズとアンビエンスに飲み込まれるM1に始まり、リヴァービーなシンセやベースラインがミニマルダブのようなM2、ブレイクコアを思わせるM3に、ドリルンベースのようなビートが「Drukqs」の頃のAphex Twinをよりアヴァンギャルドにした感じのM5と、続け様に何処かしら既視感のあるトラックが連続する。

M6のメロディの非反復性にはAutechreを思わせるところがあるし、M7のリヴァーブで増幅された金属的な打撃音のノイズ/アンビエントはOPN「Garden Of Delete」/「Good Time」に通じなくもない。
インダストリアル的な鉄槌感のあるM8はEBM的とも言えるし、M9はPrefuse 73と言うよりPush Button Objectsを想起させるグリッチホップで、M12では冒頭で掻き消されたジャングルが満を持して再登場する。

つまりはまるで過去30年のレフトフィールドなエレクトロニック・ミュージックを総括するような内容で、Demdike Stareの近作がそうだったように、スタイル横断的な傾向は最近のエレクトロニック・ミュージックのアルバムの多くに見られるものだが、ここまでトラック毎に異なるスタイルを採用している例は他に無く、何らかの明確なコンセプトの存在は疑いようがない。

とは言え音色とそれが齎すムードには統一感があり、シームレスな展開も効果的で、通底した選美眼でセレクトされたミックス・テープを聴いているかのようだ。
音数は決して多くなくシンプルであるにも関わらず、取り留めのないメロディの断片や不定形なビートが生み出す複雑性はある意味でミュジーク・コンクレート的でArcaと並置したくなるが、余計な叙情性は皆無な分、素晴らしくスタイリッシュなサウンド・デザインとして受容出来るという点で、寧ろ嘗てのOvalやその流動性に於いてAutechreの傑作「Oversteps」に比肩する力作だと思う。