Loraine James / Reflection

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Prefuse 73を思い起こさせるM1にはトラップ時代のグリッチホップといった趣がある。
M2もグリッチーな音色こそ無いが、複雑なビートが全盛期のAutechreやRichard Devineを彷彿させるエレクトロニカで猛烈に格好良い。
ジャケットにも何処かChris Cunninghamっぽい雰囲気があり、猛烈にかの時代を思い起こさせる。

漂うシリアスなムードは「Confield」に通じるような気もするが、同時に同作が獲得出来なかったポップネスも確かに備えている。
特にM10はFKA TwigsやKelelaと並べても遜色無い。
決してノスタルジアだけなく、20年の時を経て再びエレクトロニカが歩みを進め始めたような感覚が呼び覚まされる。

Loraine Jamesが黒人女性でクィアだと知った際には、驚くと同時に納得するような感覚もあった。
そのサウンドは殊更にクィアネスを強調するものではまるでないが、明らかに男性優位だったエレクトロニカの硬質さや一部の音圧で圧倒するような暴力性とは異なり、その柔らかく丸みを帯びた音像にはBeatrice DillonやYaejiに通じるようなセンスを感じる。

UKガラージをベースにしたようなM3のバウンシーなビートやM11のダブは、本作がまたグライムのミュータントでもある事を明示しているかのようだ。
過去20年の間に起きた音楽的な出来事を咀嚼して出来上がっている音楽で、その意味では20年前には聴き得なかった音楽であるのも確かだろう。