The Bug / Angels & Devils

King Midas Soundを聴いた際に予感したトリップホップ・リヴァイヴァルは現実のものとなり、本作の前半はベース・ミュージックを通過したMassive AttackやTrickyのようであり、時折ディストピックなBoards Of Canadaのような瞬間もある。

けれどもそれは「Angel」という語句が喚起するような甘美なだけのものとは違い、地を這うようなベースの重低音とそれが震わすシンバルの音のようなヒスノイズが横溢している。
M4では如何にも天使を連想させるオルガンが鳴り響くが、天上の響きの裏側でうねるドローンに耳は向かい、ゴスペルと言うよりやはりレクイエムに近く、時折マシンガンの銃声のように響き渡るパルス音が不穏さを助長する。

アルバム後半では悪魔達が口汚い言葉を罵り、ハーシュノイズやディストーションが荒れ狂い、前半のアンビエンスに対してノイズが、メロディに対してフロウが対置されているが、深いリヴァーブやビートの音圧、そして何よりもベースが基幹を成す構成等、二面性よりも通低する要素の方が印象深く、Kevin Martinの強固な作家性が一層際立つ感じがする。

そもそもM1のLiz Harrisの透き通る声とその残響によるアンビエンスに対する暴力的なベース、M2の気怠くも甘美なInga Copelandの如何にも堕天使めいたヴォーカルと阿鼻叫喚の如く渦巻くノイズ、Gonjasufiの歌うM6の陰鬱なチェロの響きとサーフィス・ノイズの対比の中に、既に「Angel」も「Devil」も内在しているのであって、そう考えると本作を構成する要素の凡そ4分の3は悪魔的だという意味で、「天使と悪魔」というよりは「悪魔時々天使」という方が余程相応しい。