Deerhunter / Fading Frontier

トラッシーだった「Monomania」の反動か、一転して穏やかで、彼等が初期から標榜してきた「アンビエント・パンク」なるコンセプトからパンクの要素を抜き取ったよう。
それは「Halcyon Digest」に於けるThe Velvet Underground志向とも違い、まるで死を希求するような鬼気迫るデカダンスや危うさを超えて、最早死後の世界で奏でられているようなある種の静謐さと甘美さがある。

厳かなシンセとエレクトロニックなビートで始まるM2は白眉だが、その他にもオルガンやハープシコード等の鍵盤楽器の存在感が増して、これまで以上に電子的な音色が多彩になることでアンビエンスのヴァリエーションの幅が拡がった印象を受ける。
リズム・セクションもマシニックな反復を基調としていて、ハイハットを強調したミキシングがエレクトロニック・ミュージック風の効果を生んでいる。

電子音響と生演奏によるソング・ライティングは取って付けた感無しに高次元で融合を見せていて、朴訥としたピアノの調べを背景にテルミン風のノイズが脈絡無く悪戯っぽく漂うM6から一転してグラマラスなパブロック調のM7への遷移などはアンビエントとロックンロールの対比に於いて鮮烈な印象を残すことに成功している。

それにしてもこのある種の達観と言うか、涅槃に至ったような穏やかさはどうしたってBradford Coxが経験した交通事故にインスパイアされているとしか思えず、当の本人達からしてみれば偏見には違いないだろうが、しかし嘗てのThe Rolling StonesRed Hot Chili Peppers、日本ではDMBQがそうであったようにDeerhunterとは死に取り憑かれてしまったバンドである、と言ってみたい衝動にどうしても抗えない。