Jamie XX / In Colour

インディ・ロックのリスナーにハウス・ミュージックを啓蒙するようなレコードであるという意味で、これは2015年の「Screamadelica」とでも呼べそうな作品である。
(現在の若者にそのような垣根があるのかどうかは知らないが。)
レアグルーヴから取られたサンプリングの多用と、それを効果的に使用したシームレスなカットインは、彼が重度のレコード・フリークであると同時に、優れたDJでもある事を思い起こさせる。

尤もここで提示されるハウスは決して単なる過去の焼き直しではない。
M8等は比較的オーソドックスなディープ・ハウスにも聴こえるが、Four Tetからの影響色濃い可憐な電子音のアルペジオのレイヤーや、Burialを思わせるリヴァービーでゴーストリーな音像等は、文字通り先輩の教えを確実に咀嚼したサウンドで、エレクトロニカとベース・ミュージックを通過しなければ決して生まれ得なかったものだろう。

また本作がレペゼンするのもハウス・ミュージックだけではない。
前情報からメロウな4つ打ちのハウスを想像して聴くと、いきなり耳に飛び込んでくるのは可聴域ギリギリで唸るダブの強烈なベースの重低音とバックビートにトースティングで、その意外性に些か面食らう事になる。
ティール・ドラムの音色が醸し出すエキゾティシズムはアルバム全体に奇妙なエクレクティックさを齎していて、口当たりの良さが取柄でスタイリッシュなだけの音楽に堕する事を否定するかのよう。

随所に現れるギターの音色はThe XXとの連続性を感じさせ、Romyの歌う2曲、特にM8のサンプリングのコーラスが挿入されるまでなんかはまんまThe XXで、それが故にまた全体を通じてストレートで単調過ぎるベースが惜しまれもする。