Thom Yorke / Anima

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ベース・ミュージックやIDMを基盤としているという点では「The Eraser」(もう13年も前!)の続編といった印象で、より熟れて洗練された感はあるものの基本路線は変わらず、Thom Yorkeの新作と聞いて想像する範囲内のサウンドであるのは間違いない。
Burialの影を引き摺ったそのサウンドは過去10余年のエレクトロニック・ダンス・ミュージックの停滞を白日の下に晒すようでもある。

ただそれでもアンビエント/ドローンやミュージック・コンクレートには走らず、歌と同様にビートに拘泥する様子はポップ・ミュージックの作り手としての矜恃の顕れでもあるだろう。
そのスタンスはアヴァンギャルド・ミュージック・フリークでありながら、ソロ名義で決して単なる実験を垂れ流さないThurston Mooreに通じるものがある。

今更ではあるがロック・ミュージシャンがエレクトロニック・ミュージックに手を出した際のえも言われぬ恥ずかしさは微塵も無く、M3のゴーストリーな2ステップの裏で聴こえるクリア・トーンのギターの弦がスライドする様までを明瞭に捉えたロウな音色のように、ギターやピアノ、ストリングス等の生音とエレクトロニクスの融合は極めて自然で、「Kid A」以来培った技術が遺憾無く発揮されている。
ノンビートのシンセ弾き語りのM4は「Motion Picture Soundtrack」にも似た、或いは電子音版の「True Love Waits」とでも言えそうな雰囲気が漂っており、電子音/生音、IDM/フォークといった単純な対立は最早雲散霧消している。

フジロックのステージでは自らベースを弾く姿が印象的だったが、シンプルな8ビートが何処となく「Hail To The Thief」を思い起こさせるM5やM8の生ベースは効果的で、良く考えるとベースだったりギターだったりといった素朴な音色の方が寧ろ電子音よりも新鮮に聴こえるというのは、過去を思えば妙な話で、Thom Yorkeのキャリアにロック・ミュージックがIDMコンプレックスを克服する過程を重ねて、思わず感慨深くなったりもする。