Schoolboy Q / Blank Face LP

ギャングスタ然としたナスティなラップはコンプトンの英雄となったGood Kidとの対比を強調するようでもあり、言われてみると確かに粘着質なエレクトリック・ギターのチョーキングが些か鬱陶しいM1や、ロック風のヘヴィなリフとトラップ由来の高速ハイハットに紛れ込ませた銃声が大仰で禍々しいムードを醸し出すM6、タイトルからしてずばりなGファンク調のM9等は、ステレオタイプなイメージを敢えてなぞったようで、ある種メタ・ギャングスタ・ラップ的とも言える。

2016年にリリースされたヒップホップ/R&Bでは、トラップからの影響が聴き取れない事の方が珍しく、本作もその例に漏れずM3やM8、M13といったトラックのビートはトラップ的衣裳を纏っているが、同時にチル&ダウナーで何処か甘美な上モノにはEarl Sweatshirt等に通じるアンビエンスもあり、クラウトラップ/トリルウェイヴをアグレッシブにアップデートしたような感覚もある。

ヒップホップ・カルチャーの最新の成果を積極的に採り入れる一方で、M10やM12等、生音っぽいドラム・ビートやサンプリング・ループの存在感が90'sヒップホップを思わせるトラックも目立つ。
Tyler, The Creator作の軽快でチープネス漂うアルバム中最もユーモラスなM11のヴァースでは、最近では珍しい直線的でオールドスクールなフロウが披露されており、The Alchemist作のジャジーでメロウな前半とSa-Raを彷彿とさせるつんのめったビートとコズミックなベース・ラインが印象的な後半で構成されたM5はKendrick Lamarに通じなくもないし、バウンシーなビートに透明感のある女声ヴォーカルが乗るM6は自らがゲスト参加したAnderson .Paak「Am I Wrong」のマイナー調ヴァージョンのアンサーのようにも聴こえる。

Kendrick Lamarに続く英雄になる事を否定し、加速するBlack Lives Matter時代のモダン・ソウルの潮流に敢えて距離を置いたかのような露悪的な身振りと、新しいゴールデンエイジ・オブ・ヒップホップ(と言うよりもブラック・ミュージック全般)を称揚する方向性との狭間で引き裂かれたかのようで、良くも悪くもバランスを取った印象で統一感には欠けるし決定的な個性が見え辛いのも確かだが、どちらアプローチも完成度は頗る高く、どのトラック/フロウもフックに富んでいて全く聴き飽きない。
「To Pimp A Butterfly」のような構成力こそ無いが、90'sのヒップホップ・クラシックのやたらと曲数が詰め込まれた雑多な感じに近いのは案外本作の方かも知れない。