Kano / Hoodies All Summer

f:id:mr870k:20200322032031j:plain

シネマティックなストリングスとピッチアップされた高音のヴォーカル・チョップに疎らなビートが絡むM1に始まり、M2やM7を加えた、ベースがすっぽりと抜け落ちたような正にウェイトレスなトラックと、その上に乗っかるKendrick LamarとEminemの中間を行くようなリリカルで熱っぽいフロウがアルバムの印象を決定付けている。

一方でM3のチップマンク・ソウルはゴスペルとグライムの出会いといった趣でKanye West を彷彿とさせたりもするし、至る所でピアノやストリングスの叙情的な音色が印象的に用いられているが、サンプリング自体は決して多くなく、寧ろビート・プロダクションはシンセ主体だし、リズム・パターンも多様で、あくまでUKらしさが基盤にある。

M8はピッチアップされた女声サンプルが初期Burialみたいなメランコリックなガラージだが、消え入りそうな弱々しいビートが従来のグライムのイメージを覆す。
ガラージのビートにゴスペル風のピアノとコーラスが絡むM10からは、(キャリアの長さを考えると些かでは失礼ではあるが)グライム版のChance The Rapperという表現も浮かんでくる。

所謂グライムらしい荒涼感のあるトラックはM9くらいで、アメリカのマーケットに媚びるような部分は一切無く、勿論USヒップホップだって最早一様ではないし、USとUKの対比が然して有効だとも思わないが、UKオリジナルのヒップホップの新しいスタンダード(言わばコンシャス ・グライム?)を宣言するような作品だと思う。