Vince Staples / Ramona Park Broke My Heart

Kenny Beatsを招聘してサンプリング・ベースのヒップホップへの回帰を覗かせた前作に対して、トラップ・ベースのビートとアンビエント的なシンセ主体の上物によるエレクトリックな質感が基軸となっている。
但しグライムやバブルガム・ベースとの同調を見せた「Big Fish Theory」のようなBPM早目のダンス・トラックは皆無で、あくまで現在のUSヒップホップのメイン・ストリームのど真ん中で勝負したような印象を受ける。

Lil Babyなんかを担いでポップ・ラップに目配せしたかのようなトラックもあるにはあるし、アルバムを通じて深い倦怠感を漂わせているものの、最近のエモ/マンブル・ラップに顕著な鬱陶しいメランコリーは無く、トラップを限りなく洗練させたプロダクションと言い、Kendrick Lamar「Damn.」に非常に近いものを感じる。
M1が銃声で終わるのも偶然にしては出来過ぎで、そう言えばアートワークからは何処か自身のルーツを掘り下げるようなテーマ設定が窺える。

M4のメロディックなシンセ・ベースはGファンクを彷彿とさせるし、DJ Quikの名前をそのまま冠したM3の808風のカウベルの使用、M5やM15の重量感のあるキックのブーム・バップ等、モダンなトラップ以降のビートとミドル・スクール的なビートを巧みに融合させたトラックが目立ち、ムードはまるで違うがDenzel Curry「Zuu」と共振するような感覚もある。

昨年のTyler, The Creatorの素晴らしい「Call Me If You Get Lost」と言い、今年に入ってからもKehlaniと言い、USヒップホップ/R&Bに於ける90’s回帰はある種決定的な動向にも思え、90’s育ちとしては期待感が募る。
こうなると我らがキングKendrick Lamarの新作がどうなっているのかが俄然楽しみだ。