Run The Jewels / Run The Jewels 3

前作から大きな変化は無いが、いなたいエレクトリック・ギターはやや減り、ウォブル・ベースを始めとしたエレクトリックな音色が比重を増して、相対的にサンプリングの存在感は薄まった。
そのクリアでハイファイなサウンドに、最早1997年にCompany Flowが醸し出していたドープネスの面影は微塵も無い。

M8のシンフォニックなシーケンスにエレクトリック・ギターとピアノが奏でるゴシックなメロディ等はNine Inch Nailsを彷彿させるが、M5には昨年のアルバムでNINを引用していたDanny Brownが参加している。
そのロック臭さを共通項とする新旧オルタナ・ヒップホップの遭遇は予想通り相性抜群だが、「Atrocity Exhibition」とは対照的にサブベースの音色やリズム・パターンは至って機能的で、ヒップホップのアイデンティティを揺るがすようなイレギュラーなビートは無い。

緻密なプロダクションは圧巻だが、作ったのがEl-Pならばそれも当然で、改めて感動を受けることもない。
多様な音色を構築的に積み上げいくそのスタイルは、DJ Shadowタイプの最終形にも思えるが、その場所に最早好敵手も後継者も居らず、些か古臭さは否めない。
構成要素の多さや情報量の過密さ、音の出入りの頻繁さが故の複雑性が、ヴァースとコーラスの差異を曖昧にしている点では、嘗てのライバルあるThemselvesなんかに共通する感覚があるが、それはコーラスが有効なフックとして機能していないことの裏返しでもあり、緩急の乏しさによって折角のKamasi Washingtonのサックスも埋もれ気味というのは何とも勿体無い。

本作のKiller MikeのフロウはEl-Pのそれをなぞるようで、前作の魅力の一つになっていた2MCのフロウの緩急の鮮やかな対比は失われている。
そんなこんなで今一つアメリカに於けるRTJの評価の高さが解らない、と思っていた矢先にele-kingでずばり「Run The Jewelsは何が凄いのか」というタイトルで特集が組まれ、興味深く読んだが、結局のところその答えはリリックに集約されるということのようで、何だか疎外感を覚えるような気分にもなったり。