Vince Staples / Vince Staples

f:id:mr870k:20210904222551j:plain

グライムやバブルガム・ベースの影響下にあった「Big Fish Theory」に較べると随分シンプルで地味な印象を受ける。
上音は殆ど単一の音色で構成されており音数も少ないし、唯一女性ヴォーカルをフィーチャーしたM7を除いてゲストは皆無で、全編に渡りVince Staplesがたった一人でラップしており派手なコーラスも全く無い。

セルフタイトルやモノクロのセルフ・ポートレートを大々的にフィーチャーしたジャケットからも、イントロスペクティヴなコンセプトを据えた作品であろう事は想像に難くない。
最近のヒップホップには珍しく、全てのトラックでKenny Beatsがプロデューサーを務めており、収録時間は20分強と短いが、単なるEP的な軽いリリースというよりも、ある種のミニマル的な美意識が貫かれていると考えて良いだろう。

ハイハットこそトラップ以降を感じさせるが、それは最早スタンダードなヒップホップのサウンドシグネチャとも言え、サブベースは比較的オーソドックスで、トラップ化云々と騒ぐ程のものでもない。
M2のハイピッチの変調ヴォイス・サンプルはJames Blakeを想起させるし、全編に渡ってSolangeのようなドリーミーなオルタナティヴR&Bに近い質感がある。
あれ程レイドバックしている訳ではないものの、浮遊感のあるサウンドとセンチメントはMac Miller「Circles」にも通じる。

未聴につき実際のところは判らないが、Kenny Beatsの起用は前作から引き続きとの事で連続性はあるのかも知れない。
ただ故Sophieの力を借りて、ポスト・トラップの地平でオルタナティヴを模索するようだった「Big Fish Theory」の次を期待した身からすると少し拍子抜けした感はある。
決して悪い作品ではないが、Vince Staplesに期待するのはこれではない。