Kendrick Lamar / Untitled Unmastered.

冒頭のウッドベースにスポークンワード、全編を彩るピアノやサックスの音色は「To Pimp A Butterfly」との連続性を確信させるに充分だし、クレジットに記載は無いがM5のエレクトリック・ベースはThundercatによるものだとしか思えない。
同時期に録音された言わばアウトテイク集なのだから当たり前ではあるが、タイトルが想起させるような未完成のデモ集故のラフさは微塵も無い。

最も古いトラックのタイトルには2013年の日付が付いているが、そのM4で既にファンク由来のナスティな女声コーラスが導入されており、「Good Kid, M.A.A.D City」のリリースから半年で「To Pimp A Butterfly」のアイデアの少なくとも一部は固まっていた事が解る。
トラック毎に異なるペルソナを演じるような変幻自在の声色も完成されていて、本編に比べても遜色無い完成度に驚かされる。

無駄に長く冗長なスキットは少し蛇足な感もあるが、微細で電子的なハット音と持続性のあるウォブル・ベースがトラップっぽいM2やM7、レイドバックしたレアグルーヴ風のボサノヴァを流麗なフロウで乗りこなすM6等、「To Pimp A Butterfly」には無かったヴァリエーションで新しい魅力を獲得している。
これらが本編に詰め込まれていれば、却って散漫でトータリティを阻害する要因になっていたかも知れず、改めてそのディレクションの的確さに唸らされる
(これと対照的なのがJames Blakeの新作であろう )。

Flying Lotus / Low End Theory以降のLAビートやRobert Glasper以降の新世代のウェストコースト・ジャズを抱合して、「To Pimp A Butterfly」が提示した新しいジャズ・ヒップホップの潮流は、D'Angeloの復活を契機とするネオ・ソウルの復興ともリンクしながら、久々のアメリカン・ブラック・ミュージックの活況を形成している (Anderson .Paakの登場やBeyonceの新作はその最たる例であろう)。
それらの音楽はこのオバマ任期の最後期にして、BlackLivesMatterの時代のサウンド・トラックであり、ブラックパワーの時代と重ねるならば、そのモダン・ソウル・ミュージックの中心に君臨するKendrick Lamarは、さしづめの現代Marvin Gayeと呼べる存在かも知れない。