The XX / I See You

らしくないホーンのファンファーレによる高らかな幕開けがバンドの変化を告げている。
これまでは同じトラック内に同居していても、交互にヴォーカルを取って余り交わる事の無かった2人のヴォーカリストのデュエットが劇的に増して、囁くようだったヴォーカルが堂々と前面に躍り出た結果、従来の密室性から比較して開放的なムードが漂う作品になった。

Hall & Oatesというソースに意外性のあるM8のヴォーカル・チョップに象徴されるように、サンプリングの比重が増し、それに反比例するようにギターの機能は限定的になった。
ビート・プロダクションを始めJamie XXの仕事の重要度は増して、「In Colour」との連続性を強く感じさせる
とは言え単純にダンス・ミュージックに振れた訳でもない。

微かにユーフォリアさえ漂わせ、イーブン・キックを加えれば即フロア・アンセムと化しそうなM2は、敢えて慎ましいダビーなミドルテンポによって軽薄なセルアウトに堕する事を回避しているし、沈鬱なストリングスをフィーチャーしたノンビートのM5からM6のダウンテンポまでと、リズムもエモーションもヴァラエティは豊か。

中盤は抑制されたムードが続くが、その分M8のガラージ風のビートには重苦しさを一蹴する、霧が晴れるような爽快さがある。
The Police「Every Breath You Take」を彷彿とさせるような直線的なベースラインが印象的なM9で、決して声高にではないが「Singing」と聴き手にコーラスを呼び掛ける様は、然してこのバンドに強い思い入れがある訳ではないし、寧ろ殊更にそこに物語を見出したくない自分であっても流石に少し感動する。
その像は歪み3人の顔は未だ全く不明瞭だが、その背景に抜けるような青空が写り込んだジャケットは、内省から一歩外界に踏み出したバンドの姿を象徴しているようだ。