Róisín Murphy / Róisín Machine

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噴射音のようなハットに起因する煙たい音像が印象的なM1を始めとして、ディープ・ハウス調のピアノ/シンセ・リフが本作のフックになっているのは確かで、M5のハウスはHerbertとの繋がりを思い起こさせる。
そのレトロなハウス/ディスコ・リヴァイバルは、Jessie Wareの近作と並んで2020年のモードの少なくとも一つを代表する作品だと言えるだろう。

アルバムのラスト2曲はファンク色が強く、特にM10はスラップ・ベースとギター・カッティングが只管アッパーで、些かカリカチュア的ではあるが、ファンキー度合では「What's Your Pleasure?」よりもこちらに軍配が上がる。
低音の効いた、仄かにざらついたヴォーカルが齎す印象か、ソフィスティケートされたJessie Wareに較べてダークで挑発的で幾分猥雑でさえあり、Jessie Wareが現代のDonna Summerだとしたら、こちらは差し詰めGrace Jonesと言ったところか(で、このジャケット!)。

M6は808 State等の80’s後半から90’s前半のアシッド・ハウスやUKテクノを思わせなくもないし、最後までビートがドライヴしないM2は、単に旋律が似ているという事でしかないが、Phillip Glassがオーケストレーションを加えたAphex Twin「Icct Hedral」やプレ・ドリルンベース期のμ-Ziqを思い起こさせる。

決してレトロ一辺倒という訳でもなく、M4はファンク・ベースと対照的なピアノとストリングスに、2ステップ・ガラージ風のビートを組み合わせたトラックで、短いホーンのカットアップが洒脱なフックとなっている。
波のように細かく揺動するシンセとシャッフル・ビートが異質なM8のダウンテンポも面白い。