Shackleton & Vengeance Tenfold / Sferic Ghost Transmits

ガムランのような高音の連なりや長い時間を掛けて1トラックが遷り変わる展開が「Music For The Quiet Hour / The Drawbar Organ EPs」を踏襲している一方で、昨年の来日ライヴでも感じた事だが、アフリカン・パーカッションやタブラによる呪術性は相対的に薄まっている。
ただそのライヴがどちらかと言えばオーソドックスなテクノへの接近を感じさせる内容だったのに対して、本作はスポークンワード(歌と呼ぶ方が相応しい瞬間もあるが)とのコラボレーションだけあって、ダンス・ミュージックとしての機能性は一層希薄になっている。

「Music For The Quiet Hour / The Drawbar Organ EPs」にもスネアが殆ど鳴らないようなトラックはあったが、本作では加えてテクノ/ハウスのドラムマシンのキック音すらクラシカルなバスドラムに取って代わられている。
結果トラックを推進する駆動力はヒプノティックな高音とダビーなシンセ・ベースのみになっており、従来にも増してアンチ・クライマックスな印象を受ける。

声に場所を譲ったという事なのか、目眩く面妖な電子音響は何時になく控え目で、絵も言われぬ怖さは薄れた感がある。
背面で蠢く音色もShackletonにしてはシンプルでバリエーションも少なく、言葉を選ばずに言えばやや凡庸で、聴き手の覚醒を促す刺激的なノイズも皆無であり、これまでの作品と較べると退屈な感は否めない。

言葉が理解出来たならばもう少し違った面白さが発見出来たのかも知れないが、少なくとも音としてのスポークンワードや歌に冗長さを補完するだけの求心力があるとは言い難く、特段特別な相乗効果が生まれているとも思えない。
相変わらずオリジナルなのは確かだが、逸早くダブステップ・シーンからの逸脱を見せた異端者のネクスト・ステップを聴かせるには到っておらず、Demdike Stareの近作がセルフ・イメージの超克を標榜するようだったのと較べると些か寂しい内容ではある。