Kelela / Take Me Apart

Night Slugsクルーを中心とした名だたるプロデューサー陣の手による、ベース・ミュージックの名残を残すトラック群は、エレクトロニック・ダンス・ミュージック不作の2017年に於いて一際輝きを放っている。
Burialを通過したドラムンベース・ミーツ・ドリームポップとも、2017年の「Star Fruits Surf Rider」とも表現出来そうなアンセミックなM3は特に白眉で、クレジットにArcaの名前があるのは些か意外だったが、確かに複雑な音響のレイヤーにその気配を嗅ぎ取る事が出来る。
関与度や役割の程は判らないが、Arca本人やBjörkに提供したトラックよりも余程ポップで、豪奢なプロデューサー達が相互にストロング・ポイントを補完し合う様が聴き取れる。

Jam Cityによるテクスチャーの異なる音色の断片を繋ぎ合わせたようなM8のビートが頗る格好良い一方で、ガラージ風のM2やM11には2010年頃に頻出したバブルガム・ポップ調の歌物ダブステップ − RuskoがAmber Coffmanをフィーチャーした「Hold On」やM.I.A.「XXXO」、Skreamの「How Real」にMagnetic Man「I Need Air」等 − を洗練させたような懐かしい感覚もある。

M11にもプロデューサーとしてArcaの名前がクレジットされているが、こちらは全く判別が付かず、こんなにポップなトラックが作れるのかと些か驚きもあった。
対照的にArcaらしいアブストラクトな音響が前面に現れるM4や、ストリングスをフィーチャーしたノンビートのM12のメランコリアは、否応無しにBjörkとの仕事を想起させたりもしてヴァラエティに富んでいるが、プレーンで透明感のある声がアルバム全体にトータリティを齎しており、散漫な印象はまるで無い。

そのヴォーカルの高音域は何処かJanet Jacksonを彷彿させるところもあり、メロディはキャッチーで、M6やM7等は聴きようによってはややチージーですらある。
イメージが被るFKA Twigsに較べると断然ポップで、アンダーグラウンドの才能が結集してポップ・フィールドに挑戦を仕掛けているようでエキサイティングだが、Kelelaというシンガー本人の作家性は未だ今一つ見えてこない。
Illmatic」の後のNasの苦悩に満ちたキャリアを思うと、豪奢なプロデューサー陣と離れて初めてこのシンガーの真価が問われる事になるのだろう。