SZA / Ctrl

揺動を含んだシンセによる気怠いアンビエント・テイストにアコースティックな要素が入り混じった音像は、Solange「A Seat At The Table」に近いだろうか。
M3のビートは少し「The Love Movement」のJ Dillaっぽくもあり、M7のオーガニックなローズ・ピアノのループはネオ・ソウルを連想させる。
M5はThe Police「Every Breath You Take」みたいで、時折聴かせる独特なパトワ訛りのような節回し等も相俟ってアルバム前半にはレイドバックしたムードが横溢している。

中盤以降は次第にモダンなエレクトロニクス主体のトラックが増え、M8の奔放なハット使いや、音量こそ慎ましやかだがボトムで唸るサブベース等にはトラップの要素を聴き取る事が出来る。
特に転げ回るような高音のハットと浮遊感のある男声コーラスのループのM9は、トラップ + アンビエントR&Bの完成形と表現したくなるような威厳さえ漂っているし、含蓄に富んだアトモスフェリックなシンセが染み渡るM11はKelelaと渡り合うようでインタールードにしておくのが勿体無い程。

振り返ればR&Bは嘗て最も中庸なジャンルの一つだったが、現在ではその定義のファジーさを逆手に取って、90’sオルタナティヴ(ロック)がそうだったように様々なスタイル・人種が交錯する最も刺激的な実験場と化している。
本作のスタイルもそれなりに多様性ではあるけれども、不思議とエクレクティックではなく、それこそMiguelのような鼻に付くエキセントリックさは微塵も無い。
それどころか寧ろ王道の風格すら漂っているという意味で、近年のR&Bの隆盛の集大成でありまた同時にピークでもあるのではないかと思わされる。

コンテンポラリーR&Bが常にヒップホップのビートのトレンドを反映してきた事を鑑みれば、そのトラックがトラップやアンビエントを採り込むのもごく自然なプロセスと言えるが、その様式がスタンダードへと遷移していく過程に於いて、本作のヒットは確実に一つエポック・メイキングとなるだろう。
その意味で近い将来、元より余り評判の宜しくない「オルタナティブR&B」なるタームを葬ったアルバムとして記憶される事になるのかも知れない。