H.E.R. / Back Of My Mind

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転がるようなハットが一見有りがちなトラップ・ベースのコンテンポラリーR&Bのようにも思われるM1だが、良く良く聴けばドラム・ビートは変則的で、エコー&リヴァーブ塗れのハイピッチなヴォイス・ループとシンバルの残響がなかなかにサイケデリックな音像を作り出しており、それなりに期待を持たせるオープニングではある。

M2やM9の揺らぎ、倍音を含んだシンセ・シーケンスはJames Blakeフォロアー的なサウンドで、ドリーミーでレイドバックしたM14はSolangeにも通じる。
ムードはもっとメランコリックだが、全体的な印象としてSZAなんかに近いだろうか。
個々のトラックに然程悪い印象は無いのだが、総じて言えば如何にも2010年代以降のオルタナR&Bで、些か食傷気味なせいか驚くほど引っ掛かるところがない。

ブルージーなギターをフィーチャーしたM11等は少しLauryn Hillを彷彿とさせたりもするし、M16は粘着質なギターがPrinceやD’Angeloを連想させるな濃密なソウルで、エレクトリック・ピアノの伴奏のみでジャジーに聴かせるM19等、寧ろオーセンティックなブラック・ミュージックの方が未だ魅力的だが、トータリティの面で却って散漫な印象に繋がっているようにも思え、Solangeのような一貫した作家性は感じられない。

ハスキーでクールな印象のヴォーカルは全く嫌いではないが、トラックは今一つ独創性に欠けるし、ソング・ライティングに於いて突出した何かを感じられる訳でもなく、優れたシンガーという以上の訴求力は無い。
1時間20分という長さも手伝って、些か冗長で退屈な印象は否めない。