地を這うようなベースの重低音と扇情的なビープ音、散弾銃の如きビートと強迫的なスポークン・ワード、或いは獰猛なラガ/グライムMC、そしてそれらが渾然一体となって醸し出すディストピックなサウンドスケープ。
The Bug名義では7年振りだというのに冒頭から何一つ変わらない。
笑っちゃうくらい簡潔な曲タイトルも相変わらずだ。
元より強烈なシグネチャを有したThe Bugのサウンド自体が発明みたいなもので、致し方無いと言えばその通りかも知れないが、GrouperやInga Copelandといったヴォーカリストを招いて、歌を採用する事で二面性を前面に押し出した「Angels & Devils」の方が余程コンセプチュアルで新しい事をやろうという野心が感じられた。
だからと言って内容が悪いかと言うとそういう事でもなく、特にM3やM10はファンなら誰しもが期待するであろう通りのアグレッシヴなデジタル・ダンスホールで流石に高揚させられる。
音数は少な目で構成や展開の面でもシンプリシティを感じさせるという点で、「London Zoo」の頃への揺り戻しを感じさせなくもない。
近年は本人名義のアンビエントやJustin BroadrickとのZonal等、多数のサイド・プロジェクトを並行している事もあって、実験欲はそちらで満たされているが故の原点回帰であるのかも知れない。
Moor Motherの参加を除いてカレント・ミュージックとの関連性は一切感じられず、総じて2000年代後半のトレンドを聴いている感じでやはり隔世の念は禁じ得ない。
では一体現在の音とは何だろうか。
例えばシンギング・ラップやトラップのハットとシンセ・アンビエントを採り入れたR&Bなんかがそれなのだとしたら、本作の方が余程良いのは確かである。