Arctic Monkeys / Tranquility Base Hotel + Casino

グルーヴィなベースとドラムにピアノを中心として、オルガンやハープシコードヴィブラフォン等のチェンバーな器楽音で装飾を加えたコンポジションはGrizzly Bearに近い感覚だが、決して破綻がある訳ではないもののそこまで演奏がテクニカルだとは思えないし、音響面ではエコーを始めとした残響処理に工夫の跡が聴き取れるが然して驚く程のものでもない。
M7のイントロ、ヴァースはThe Beach Boysのようでもあるが、その手のサウンドにはここ10年で聴き飽きたし、ソングライティングに光るものを感じる訳でもない。

グラムロック調のヴォーカルはDavid Bowieと言うより
酔いどれたRobert Pollardようで決して嫌いではないし、ムード歌謡のようなパブロックのような曲調も手伝って、Deerhunter、もっと言えばAtlas Sound「Parallax」に通じるような感覚もあるが、Bradford Coxが醸し出す狂気のような鬼気迫るものは感じない。

グライムをインディ・ロックに持ち込んだというパブリック・イメージとは随分違う。
過去にはJosh Hommeをプロデューサーとして招聘した事もあり、作品毎に大きくスタイルを変えるタイプのバンドだというのは理解出来るが、これが1st だったとしたら果たして00年代を代表するブリティッシュ・ロック・バンドになっていただろうか。
要するにバンドの特色もストロング・ポイントも本作を聴く限りではまるで解らない。

コンポジションや音色のドラスティックな変化がチャレンジングだとして長年のファンや批評家から一定の評価を得るのは良くある事だが、そのアーティストの音楽に初めて触れる側からすると何が特別なのだか良く解らない、というのもまた変化というオブセッションが半ば目的化したポピュラー・ミュージックに於いては必然だろう。
かと言って「Kid A」で初めて90’sを代表するブリティッシュ・ロック・バンドであるRadioheadを聴いた人達が同様だったかと言うとそんな筈はない訳で、Radioheadと較べるのは確かにフェアではないとしても、それが格の違いというやつなのではないだろうか。