Oneohtrix Point Never / Age Of

正直チェンバー・ポップというジャンルには辟易していて今最も気分でなかっただけに、OPNの新作に多様な器楽音に歌までも導入されていると聞いた際には不安が過ったものだったが、またしても良い意味で予想は裏切られた。
冒頭を飾るチェンバロを始めとして、確かにクラシカルな器楽音は本作を特徴付けているが、電子的なマニュピレーションによって歪み変調されたそれらの古典的な楽器の音には電子音と等価どころか全く新たな音を再発見するような感覚があり、特段チェンバーという感じはしない。

一音一音の個性を最大限に引き出す巧妙なミキシングは間違いなくJames Blakeの仕事だろう。
テン年代を代表する二人の天才の遭遇に相応しく、音そのものの新奇さはキャリア一番ではないかと思わされる凄味がある。
バロック調の器楽音が齎す神聖なイメージは「R Plus Seven」を彷彿とさせるが相反するノイズやPrurientの咆哮との組合せはスラップスティックで、その諧謔性に於いて実は一番近いのではないかと思うのは「Replica」だったりする。

前作のビートに続き、オートチューンによって変調が施された歌の導入も重要なトピックで、Daniel Lopatinがプロデュースを手掛けたAnohniは勿論の事、最近のArcaに通じる感覚もあるかも知れない。
Daniel Lopatinのキャリアが歌もビートも無いところから始まり現在に至った事を考えれば、Roxy Musicを経てアンビエントへと至ったBrian Enoとは(そして勿論他の多くのアンビエント/ノイズ作家とも)真逆の軌跡を辿っているとも言える。

本作を聴く事でOPNが「Garden Of Delete」でアンビエント/ドローンを逸脱し、全く新しいフェーズに突入したのだという実感が湧いてくる。
表層的なサウンド・スケープや喚起させるイメージは対照的だが、ミュジーク・コンクレートを援用しつつ全く新しいポップの再定義を試みている点で両作は共通しており、気紛れなように見えて実は確固としたプロットに裏付けられているからこそ、我々はDaniel Lopatinの動向に釘付けにさせられてしまうのだろう。