Deerhoof / The Magic

ロウで爆発力のあるファズ・ギターやベース・ヴォーカル故のボトムの隙間が産むグルーヴに、ジャパニーズ・イングリッシュのチャイルディッシュなヴォーカル、手数足数の多い躁的なドラミングとストラクチュアルなコンポジション、特段いつもと変わった事をやっている訳ではないが、それでも実にフレッシュで、Deerhoofの良さが詰まったアルバムだ。

ここ数年の活動を仔細にフォローしていた訳ではないが、少なくとも2011年の「Deerhoof Vs. Evil」に較べると音色は限定されており、バック・トゥ・ベーシックな感覚がある。
Greg Saunierがヴォーカルを務めるM3やM8ではストレートなパンクの要素が前景化し、M13ではガレージとサーフ・ロックを混ぜたような、珍しく直球のロックンロールが披露されている。
そしてダイナミックな緩急による痙攣するグルーヴに気が抜けるような平坦なヴォーカルとナンセンスなリリックが乗るM15にはこれぞDeerhoofといった痛快さがある。

シンセ/キーボード類を除いては標準的なロックンロール・バンドの音色が基調になっているが、曲調は幅広くヴァラエティに富んでいる。
チープな電子ノイズが踊り狂う脱臼ファンク的なM6に、変拍子Deerhoof流のシャンソンといった趣きのM9、歌をなぞるシンセが微かにAOR風のM10や、M11のローファイ、マシニックなドラムとベースが「ゴーストバスターズのテーマ」みたいなディスコ・チューンのM12、ドラムマシンよるビートがトリップホップっぽくもあるM14、とスタイルは多様で飽きさせない。

1曲は短く、冗長なところは一切無く、独自のスピード感と共に一気に駆け抜ける15曲40分。
BeyonceやBon Iver等、コンセプチュアルで大作然とした作品が目立った2016年にこの軽快さは小気味よく、主要メディアの年間リストからは悉く無視されたものの、個人的には間違いなく2016年ナンバーワンの「ロックンロール」アルバム。