Sleater-Kinney / No Cities To Love

一度歩みを止めたバンドがそのキャリアを再開するのには幾つかの理由が考えられるが、The Stone Rosesのような単純な金儲けは別にして、未完成で放置された仕事を完成させるのがMy Bloody Valentine「MBV」の目的だったとすれば、Sleeter-Kinneyの復活作は完全なる初期衝動の賜物だと言えよう。

一時たりとも手抜きをしないアレンジメント、飾り気の無いツイン・ギターによる瓦解寸前のスリルが絶妙なアンサンブル、Janis Joplinを彷彿とさせるソウルフルなリード・ヴォーカルと舌足らずなコーラスの心躍るハーモニー、芸の細かい引出豊富なドラミング。
尤も老いを重ね、少し野太くなった2人の声質は接近し、以前の鮮やかな対比こそ薄れているものの、老成とは無縁のSleater-Kinneyの最良の瞬間が詰まっている。

The Clash好きが嵩じてThe Pop Groupに接近した結果、The SlitsになったようなM2等のポストパンク趣味、M5やM11に於ける疾走感は相変わらずで、荒々しくもその一音一音に懸ける熱量と集中力の高さや、猛々しさの中にも顔を覗かせるキュートさは、Sleater-Kinneyが自分にとっての理想的なロック・バンドのロールモデルの一つであった事を思い出させるに充分な魅力を放っている。

ツインギターを別にすれば取り立てて構成上コンセプチュアルな部分は無く、それも明瞭な役割分担がされている事を考えれば音色的な特色も然して無い。
そんなごく普通のロックンロールが、2015年に於いて少なくとも自分にとってはこれほど最高にエキサイティングで感動的に響くという事実自体が、ロックンロールに最早進化などを標榜する必要はないと物語っているような気もしてならない。