The National / Sleep Well Beast

多様なエレクトロニクスにピアノやストリングスといったクラシカルな楽器音が揺蕩う音像とリリカルなメロディはBon Iver「22, A Million」に通じるが、鼻に付くアヴァン志向は無く、ソング・ライティング自体は極めてオーセンティックなもの。
生ドラムによるフィジカルなリズムやエレクトリック・ギターの存在感、ボトムの効いた歌声といった要素も相俟って Radiohead「A Moon Shaped Pool」やDavid Bowie「Black Star」といった、エレクトロニクスやチェンバーな音色で装飾されたロックを連想させる。

プロセッシングにMouse On Marsの2人が関与しているだけあって、電子音は精巧でそれなりに幅広いが、M8の後半に於ける人力ドラムンベースのようなビートの暴走と荘厳なストリングスのアンサンブル等の僅かな瞬間を除いて異物感は希薄で、全てが程良く洗練されている。
突出したところは無く、敢えて挙げるとすればWilcoに近いかと思ったりもするが、ユーモアは感じられず終始誠実そうで、その生真面目さに幾分息が詰まる。

M9のマシニックなドラムとピアノのアンサンブルやM12のミニマムなグルーヴは2010年代以降のRadioheadを強烈に連想させるし、緻密な電子音や音響操作からは2017年の「OK Computer」といった趣きも無くはない。
(M6は「Paranoid Andoroid」の代わりと言うには少し変哲の無さ過ぎるロックンロールだが。)
何よりも低音域が震え掠れるヴォーカルは(パラノイアックな感じは無く、実に健康そうではあるものの)Tom Yorkeに良く似ている。

Radioheadが未だチャレンジングな稀有なロック・バンドであるのは疑いようがないが、そのキャリアのピークを90’s後半から00’s初頭とするなら、そこからもう20年弱が経過している訳で、Grizzly Bearにしろ良心的なインディ・ロック・バンドが未だにRadioheadの影響から逃れられないのかと思うと、流石に良い加減何とかならないものかと些か辟易としてもくる。
やはりギターとベースとドラムと歌の組み合わせからはもう突然変異は生まれないという事なのだろうか。