The Weeknd / After Hours

 

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シングルとして全世界でヒットしたM9はまるでA-Ha「Take On Me」のようで、実にいなたいけれども闇雲な突破力がある。
メロディはキャッチーを通り越してチージーで、もはやオルタナR&Bどこ吹く風の正真正銘のポップスだがその強度は否定し難い。
M10はScritti Polittiみたいだし、M11も聴きようによってはThe Policeのようで、その80’s臭からはJanelle Monáe「Dirty Computer」が思い浮かんだりもする(とは言えPrince由来の猥雑さはここには全く無いが)。

2ステップ風のビートを採用したM2は少しJokerを彷彿とさせ、M5のハイハットはトラップと言うよりは寧ろ廉価版のJames Blakeといった感じ。
M3ではドリルンベースと言うか、明け透けな「Richard D. James Album」のビートの盗用とティーン・ポップが融合し、M13は歌さえ無ければThe Fields辺りのミニマル・テクノ風でもある。
短絡的過ぎて誰もやらなかっただけという気もしなくはないが、確かにエレクトロニック・ミュージックの造詣はそれなりにあるのだろう。

ただそれにしてもウォブリーな音像やオートチューンの多用を含めて10年前を基準したオルタナティブといった感じは否めず、ここに未来があるとは微塵も思わない。
趣味の悪いジャケットも、鬱陶しいファルセットの声質も、M4のようなナルシスティックで退屈なメロディも積極的に好きではない。
幾らポップスだと割り切ってもCharli XCXのようには面白がれない要素も多分にある。

加えてチープなスピーカーで聴く分には未だ気にならないが、ヘッドフォン聴くとシンセのレイヤーが過剰でミキシングもカオティックで、まるでArcaを聴くのと同類のストレスフルな感覚がある。
勿論それ自体は実験性の発露と取れなくもないが、それが件のメロディや歌と合わさると若干気が狂いそうになる程堪え難い。