Thundercat / It Is What It Is

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Kamasi Washingtonのテナー・サックスが存在感を放つ、Thundercatにしては珍しくスピリチュアル・ジャズを感じさせるM2、Miguel Atwood-Fergusonによるものと思しき勇壮なストリングスとLouis Coleのエレピを引き連れて超絶技巧のドラミング(ブレイクのキックで僅かに綻びが聴けるのが逆に良い)が16ビートで疾走するM3等、アルバム前半は「Drunk」同様にヴァラエティ富み時にアップリフティングで、表面的なサウンドMac Millerの死の影響は余り感じられない。

Steve Lacyのギターとヴォーカルが「Apollo XXI」そのままのM4は、ThundercatがSteve Lacyにとっての重要なメンターの一人である事を実感させ、2010年代のAOR/ヨット・ロックの復興にThundercatが果たした役割の大きさを再認識させられる。
上昇するベースのアルペジオがエキサイティングなM6はドラムンベース・ミーツ・フュージョンといった趣きでSquarepusherに通じるところもある。

M1のイントロと対を成すようなインタールードのM10を境に「The Beyond / Where The Giants Roam」にも通じる何処か靄が掛かったかのような幻想的で幽玄な音像に移り変わる後半は、多くの友人達との共同作業で作り上げられた前半とは対照的で、憂い帯びた内省的で何処か沈鬱な曲調からは、絶望感やナルシズムとは違った親友を失ったリアルな喪失感・空虚感が伝わってくる。

ある種のアンチ・クライマックスな展開に、茫然としている間に気が付くとアルバムが終わっている印象で、正直言うと後半のモードだけでアルバム1枚は流石に辛かっただろうという気がする。
自然な成り行きなのだろうとは思うものの、下手に異なるムードの曲をシャッフルせず、敢えて前後半でがらりとムードを変えた点が功を奏しているようにも思え、その優れたバランス感覚には関心させられる。