Jessie Ware / That! Feels Good!

Beyoncé「Renaissance」がJessie Wareの競争心に火を点けた、なんて事は先ず無いだろうけれども、自分こそが現代のDonna Summerだと言わんばかりに前作にも増して徹頭徹尾ディスコを前面に押し出した内容で、M2等には正に2023年の「Hot Stuff」といった感じの趣きがある。
プロデュースは前作に引き続きJames Fordが務めているが、エレクトロやUKガラージの要素は減衰し、生楽器、特にブラス・セクションが活躍する場面が増えた印象がある。

前作と同様に冒頭のM1〜M3のアップリフティングな流れが先ずは白眉。
M4のソフィスティ・ポップで一旦クール・ダウンした後は、サンバのリズムでラテン・テイストを織り交ぜたM5の助走を経て、Róisín Murphy並みにファンキーなM6とそれに続くアルバム中随一のハウス・トラックであるM7で早くも再び2度目の絶頂を迎える展開も見事としか言いようが無い。

以降ラストまでの3曲に目立った存在感は無く些かあっさりと終わってしまう印象だが、キラー・チューンが満載過ぎてやや霞んでしまうだけで、特に豪奢なストリングスがバレアリックなムードを醸し出すM10は決して捨て曲といったレベルではなく、「What’s Your Pleasure?」以上に中弛みの無い完全無欠のポップ・アルバムと言って良い。

レトロで退行的なのは間違いないし、「Renaissance」程コンセプチュアルでもないが、この潔いまでの快楽主義には「Renaissance」に決して引けを取らない程の抗えない魅力がある。
言っちゃあ悪いがBeyoncéに較べれば取り立ててルックスが良い訳でもないし、配偶者が権力者である訳でもない、ごく普通(かどうか本当のところは判る筈もないが)の中年の入り口に立った女性であり一児の母親でもあるJessie Wareによって鳴らされるからこそ、この突き抜けたファンクネスとポップネスの輝きが増すようにも感じられる。