Jessy Lanza / Love Hallucination

M1はBPM130くらいのアップテンポなイーヴン・キックにオールド・スクールなシンセ・ベースとピアノの音色で構成されたシンプルなハウス。
続いてUKガラージ/2ステップのビートを援用したM2、ちょっとバブルガム・ポップ風のM3と乗っけからアップリフティングなトラックが目白押し。
何れも特にシンセ・ベースがフックになっており、その快楽指数の高さからはYMOに於ける細野晴臣の手弾きのシンセ・ベースの遺伝子が感じられる。

オルタナティヴR&B的な楽曲はM4やM8くらいとぐっと減って、よりビートにフォーカスした印象がある。
元からソングライターとしてよりもビートメイカーとしての才能の方に惹かれていただけに、ポップ・ソングとしてのフックの乏しさに引っ掛かる必要が無い分個人的にこの変化は好ましい。
と言いつつもM4やM8はある種の詩情を感じさせ、ソング・ライティングの面でも一定の成長を感じさせる。

ヴォーカルは歌というよりもハウスにおけるサンプル的な役割を果たしており、FKA TwigsやKelelaよりは確実にYaejiに近い。
歌の在り方以外にも、隙間の多いオールド・スクール・エレクトロのようなシンプルなビートが生み出すファンクネスやオールド・スクールな音色の構成要素等、Yaejiに通じる部分は多い。

彼女達が体現するシンガー・ソングライターであると同時にビート/トラック・メイカーでもあるというアーティストとしての在り方は、今では当たり前とまでは言わずとも然程珍しい事ではないが、ほんの10数年前にJames Blakeがセルフ・タイトルのデビュー作で自ら歌い出した時には大きな驚きと共に受け止められた事を思うと感慨深いものがある。