Burial / Antidawn

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ビートレスが賛否両論を呼び起こしているようだが、逆に言えば従来のBurialとの違いはそこしか無い。
サンプリングによる歌/声の断片のコラージュ、クラックル・ノイズとレクイエムのようなパイプ・オルガン、そしてそれらが作り上げる茫漠として霞んだノスタルジックでゴーストリーな音像は余りにBurialそのものだ。

確かに2ステップのビートが無いのは寂しくない訳ではない。
但しBurialがBurialである為に、ビートは最初から必要不可欠な要素ではなかったのではないかと思える程、本作はBurialの作品として完結している。
それに正確に言えば完全にビートレスという訳でもなく、M4では超微小なイーヴン・キックとハイハットが確かに鳴っている。
とは言え散発的で身体を揺らす事すら出来ないのは確かであるけれど。

これまで例えば「Tunes 2011-2019」にもノンビートのトラックはあったが、どうしても強度の面でダンス・ビートに耳が向かってしまう結果、ある種のインタールード的な受容に留まっていたように思う。
対して本作ではビートが愈々極限まで相対化される事によって、Burialのサウンドのコアの部分が剥き出しになったという印象を受ける。
特に多彩なクラックル・ノイズは、単なる背景に留まらない豊潤な音楽的要素として存在している。

しかしそれでもこのサウンドアンビエントと呼ぶ事にはどうしても違和感を覚える。
その源泉には勿論絶えず挿入され続けるリリカルな歌の断片の存在もあるだろうが、それ以上にシーケンスと呼ぶには余りにも非連続的・断続的な上音が、聴く者の意識を様々な位相にパンニングさせる事が大きいように思われる。